刷り込みは怖い。まるで疑いを持たないからだ。今の日本人で、少子化は社会問題であって解決すべきだ、という議論を疑う人はどれくらいいるだろうか。また、原子力は日本にとって必要なエネルギー源である、ということも似ていたように思う。
さて、少子化=人口減少が解決すべき社会問題だというのは、大いに疑ってよい。どこかの時点でSteady State Economyに移行すべき世の中にあって、少子化はそのきっかけとなりうる。そもそも資源には限界があるわけだが、現在のGrowth Economyを前提とした考え方では資源が有限であることを一切無視している。そもそも無限のGrowthなどあり得ない、という当たり前の事実をまずは認識すべきである。
少ない人口では、各種資源の消費も少なく、住宅問題なども生じず、CO2排出量も少なくなるし、各種環境問題が叫ばれる中、良いことづくしである。1人あたりの価値を高める高水準の教育を行い、1人あたりの生産性を向上させれば、平均的な生活水準は落ちるどころか上がるし、ひとりひとりの幸福も増えるだろう。資源不足による貧困は生じることもないし、人口集中による住宅問題なども緩和される。同じ生産性を維持しながら働く時間を減らし、生きる歓びに費やす時間を増やすこともできるだろう。先進国として、最小不幸社会、また、最大多数の最大幸福、を同時に実現するには、Growth EconomyからSteady State Economyへの考え方のシフトが重要である。この中で、人口減少は重要な役割を果たす。
Growth Economyを叫ぶ主流派は、結局のところ、技術革新が根本的役割を果たすと考えているようだし、事実これまでの歴史ではそうだったかもしれない。既に地球資源に限界を感じるようになってきた今、将来SFにあるように宇宙に資源を求め、無尽蔵な資源を技術革新によって開拓していけば、Growth Economyを支えられるかもしれない。人類が生物である以上、数を増やそうとするのはそれこそDNAレベルで刷り込まれた本能と言えるかもしれない。その意味では、確かにGrowth Economyが生物として正しい方向だし、人口を無限に増やしていく方策を考えるのは尤もだとも言える。
しかしここで言いたいのは、人口減少は悪である、ということを、すべてのメディア、教育等で叫ばれていては、子供の頃から完全に刷り込まれて正しい議論ができないのではないか、ということである。刷り込まれて疑いを知らず、人口減少はよくないのだ、と「信仰」してしまう。様々な議論があってしかるべき人口問題を、このような偏った考え方で埋め尽くすことに、大いに疑問を感じる。このような刷り込みがあってこそ、ある政党は人口減少問題を掲げ、出生率向上のための政策として子ども手当というあり得ない愚策が実際に実行されてしまうに至り、また他の多くの政党でも、少子化対策が重要な政策項目となっている。政府が先頭にたってお見合いパーティーを行うのだ、とかいったふざけた政策もあったように思う。こういう馬鹿げた政策がもっともらしく報道されることはあっても、逆の視点は全くと言っていいほど出てこない。少子化バンザイで、それに対応した社会システムのシフトを提起するような政治は全く見当たらない。少子化によってより良い社会を実現する可能性はあるのに、そういう議論すら浮かんでこない。政官学民すべてで、「少子化=悪」ということを完全に刷り込まれているのではないだろうか。
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